2018年4月16日

翻訳ジョーク考№10(経験)

 今回は「翻訳ジョーク考」の記念すべき第十回目です。
 この記事のコンセプト及びジョークの選び方は第一回をご参照ください。
(第一回の記事はこちら。)

 

 使う本は、Fred Metcalf氏編The Penguin dictionary of Jokes(UK版)です。
 今日の記事は102ページ2番目のジョークに決まりました。
 カテゴリーは「経験(Experience)」で、試訳は以下の通りです。

 

経験:2


経験がなくて苦労するのは、その必要がなくなる後になって初めて経験したことになるからだ。

 

Experience : 2

The trouble with experience is that you never have it until after you need it.

(The Penguin dictionary of jokes, wisecracks, quips and quotes, compiled by Fred Metcalf, Penguin, 2009, p.102.)

 

 今回は人生訓と言いますか、いわゆるアフォリズムになっています。

 こういうのはスパッと決まらないとたいへん訳しにくいのですが、おそらくはこれよりもずっと良い訳があるのだと思います。しかし考え出すとキリがないので、とりあえずということで以上のように訳しました。


 『ペンギンジョーク辞典』には、「経験」のカテゴリーでほとんど同じ内容を持つフレーズがもう一つありましたので、それも合わせて訳してみます。試訳は以下の通りです。

 

経験:1

 

経験とは、髪を失った後に人生が与えてくれる櫛である。

 

Experience : 1

 

Experience is the comb life gives you after you lose your hair.

(The Penguin dictionary of jokes, wisecracks, quips and quotes, compiled by Fred Metcalf, Penguin, 2009, p.102.)

 

 こちらの方が具体的なのでわかりやすい気がします。

 

 ここでもやはり時間のことが問題になっていて、経験はいつでも事後的にしか意味を持たないというのが鉄則のようです。

 これだと何だか、誰もが経験と引き換えに髪を失うみたいな言い方に見えますけど、そうなるともう櫛なんかいらないよって人も出てくるかもしれません。

 それにしてもこの譬え、うまいこと言っているんでしょうか?

 

 まあ、経験の話は自転車などが具体例になりそうです。

 「乗ることができるようになるまでの訓練」が経験のプロセスで、もう完全に乗ることができる技能が身についたという段階になったときに経験のプロセスは完了しているという。

 ただ、ゴールをどこに設定するかで意味合いはだいぶ変わってくるので、日常生活で困らない程度に乗れればいいというレベルと、自転車競技の選手のように一生涯経験のプロセスの中に身を置くレベルとでは単純比較は難しそうです。

 

 私は車の免許を持たないのでわかりませんが、日常生活の中でさえもバイクに乗るという経験値の上昇に終わりがあるとはぜんぜん思えませんし、母語である日本語でさえいつか「読んで書いて聞いて話す」訓練が終了するなどとは夢にも考えられません。

 従事してきたホラー研究も、「こんなのいつ終わんだよ!」という焦燥の中に居座ったまんま、ずうっともがき続けているような気がします。

 

 ジョークというよりは箴言に近い今回のフレーズでしたが、なかなか考えさせられる内容です。それではまた次回お会いしましょう。

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