2018年3月19日

翻訳ジョーク考№2(独身生活)

 さて、今回で第二回目になります「翻訳ジョーク考」ですが、コンセプト及びジョークの選び方については第一回をご参照ください。

(前回の記事はこちら。)

 

 一応の目標として週に1、2回朝6時に上げて行くという予定なのですが、不定期になったらすいません。目指すところは新聞の4コマ漫画で、通勤中の朝のひと時を「ふーん」とか「ふふふ」と読んでもらえたら有り難いところです。

 

 使う本は、Fred Metcalf氏編The Penguin Dictionary of Jokes(UK版)です。

 今日の記事は264ページ14番目のジョークに決まりました。

 カテゴリーは「独身生活(The Single Life)」で、試訳は以下の通りです。


独身生活:8


独身男性は、生命、自由及び女性を追求する幸福に信念を有する。


Single Life, The : 8


A bachelor is a man who believes in life, liberty and the happiness of pursuit.
(The Penguin dictionary of jokes, wisecracks, quips and quotes, compiled by Fred Metcalf, Penguin, 2009, p.264.)

 

 今回は法律文書風に訳してみましたけど、「独身男性(bachelor)」という前提で「追求の幸福(the happiness of pursuit)」をジョークとしてどう受け取るかが翻訳のポイントになりそうです。

 この表現はアメリカ独立宣言の「生命、自由及び幸福追求(life, liberty and the pursuit of happiness)」の文言をもじったもので、いわゆる「幸福追求権」をネタにしているということでしょう。

 

 試しにコトバンクで「幸福追求権」を引いてみると詳しい解説がいくつも出てきますが、ここでは「生命、自由及び幸福追求」という文言の歴史について言及している『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)の記述を引用してみます。

(他の解説に興味のある方は、コトバンク参照元のこちらをご覧ください。)

 

日本国憲法(13条)に保障された基本的人権の一つ。ジョン・ロックは、人の自然状態でもつ自然法として「生命・自由・財産the Pursuit of Happiness」の保障を掲げたが、バージニアの権利章典やアメリカの独立宣言では、これを「生命・自由・幸福追求」と広げて宣言した。日本国憲法はこれを受け継いだものである。語の由来は明らかであるが、「幸福」という漠然とした価値を追求する権利の内容については、さまざまな議論がある。〔中略〕また、この権利がロックの思想に負うところから、「幸福」は自由権的内容に限られるのか、それとも沿革にはこだわらず、社会権的内容までをも含むのかが争われることもある。いずれにしても幸福追求権の行使には、公共の福祉に沿うことが求められている。[佐々木髙雄]

 

 引用文中の「財産」の原語は「Property」で、「the Pursuit of Happiness」は「幸福追求」のところに来るべきなのですが位置がずれています。

 

 それにしても今回紹介したフレーズが独身男性自身が自分のことをネタにしたジョークであるにせよ、第三者が独身男性をネタにしたジョークであるにせよ、ここに出てきている「幸福」と「追求」の含意は決まりきっているようです。

 つまりジョークに登場する独身生活者の男性が、自分の「幸福追求権」の一環として「女性を追いかけ回すこと(the pursuit of women)」を主張する構図になるということです。

 

 もちろん私の個人的な意見として、ジョークの前提にある「独身者は不幸だ」とか、「男性は女性を追いかけ回さなければならない」といった強迫神経症的なニュアンスをみなさんに押しつけるつもりはありません。

 しかし「ヒロイン」とか「マドンナ」が出てくるような作品群にはこの前提がないと物語が起動しないこともあると思うので、扱いが実に難しい。

 

 ただ翻訳してみると、当然と言えば当然なのですが、ある種のジョークを受け取るためには完全にステレオタイプ化されたコードで解釈する必要があるので、それがあからさまになるように箴言めいた法律文書風の訳にしました。

 実はこの訳の他に、独身男性の飲んだくれが酒場で偉そうに語るという設定でハードボイルド風の訳も作ってはみたのですが、煩雑になると思って載せるのを見送りました。

 

 期せずして出くわしたジョークですが、特に笑えないとか笑いにくい時にそこではどのような価値観の押しつけがあるのかを考えてみるのは意外と重要なことなのでしょう。

 翻訳ジョーク考、第二回目にして早くもなかなか手放しで笑っていいものかという感じで困りましたね。

 

 というわけで、また次回お会いしましょう。

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