2016年1月11日

「天使的な、あまりに天使的な」№.1

 今回は、かなり以前からこのブログのコンテンツを増やそうと思って温めていた企画の第一回目です。 それは、言葉に関するエッセイで、ホラーとも映画とも直接的にはあまり関係がありません。

 

 タイトルにある「天使的な」という形容詞は穂村弘さんの『絶叫委員会』という本から拝借しています。私はこの本が大好きで、日々のきらめくフレーズに対する感性をできるだけ鈍麻させずに少しでも鋭敏に維持するために、忘れたころに読み直すことにしています。(ちなみに、似たような用途で町田康さんの『爆発道祖神』も忘れたころに読み直しています。いつの間にかどちらも文庫化されていました。)

 

 さて、『絶叫委員会』の表紙には、以下のように記されています。(以下は引用です。)

 

町には、偶然生まれては消えてゆく無数の詩が溢れている。

不合理でナンセンスで可笑しい、天使的な言葉たちについての考察。

 

 穂村さんは本のなかで、こうした「天使的な言葉たち」について、日常生活の「外の世界のリアリティ」と言ってみたり、ときには「生々しい」と形容したりしています。さらには「偶然性による結果的ポエム」という言い方もあります。

 これを読むと、なにげないごく当たり前の場面で突如きらめく「天使的な言葉たち」にそっと気づいて、驚きたじろぐ穂村さんの姿に思わず共感して笑ってしまうわけなのですが、私もその顰に倣って「天使的な言葉たち」を見つけたときにゆるく紹介していきたいなと思っていました。(もちろん、穂村さんが紹介する言葉たちの「天使らしさ」が放つ澄み切った輝きには到底及びもつかないのですが。)

 

 『絶叫委員会』を読むと、ルーティン・ワーク的な何気ない普段の会話にはこんなにも「ポエム」が潜んでいるのかと気づいて、「天使」探しが楽しくて仕方がなくなります。もちろんそうやすやすと出会えるわけではなさそうですが、「どこかで待っているかもしれない」という期待感が、言葉とそれを発した当人に対する、常にポジティヴであるとは限らない思いやりにもなって、きっといろいろなことがわかるようになってきます。(そのため、もし良かったらみなさんにも「天使の言葉」探しに協力していただきたく、末尾にメールアドレスを添付しておきます。)

 

* * *

 

 私が出会ったのは、例えばこんなフレーズです。

 

 

 「っていうかァ、大量殺りく兵器みたいな~」

 

 

 これは、私がもう何年も前に仙台で暮らしているとき、路上ですれ違った高校生二人組の会話から聞こえてきたものです。(こうしたせりふの言い方にすでに時代性を感じるほどですが、ほんの数年前の出来事です。)

 こちらは自転車で、向こうは歩きで、橋の上で歩道が狭かったために横に並んでいる二人を避けるように速度をゆるめたら、この言葉だけがはっきりと耳のなかに飛び込んできました。文脈はわかりません。

 

 「っていうか」という若者言葉と「大量殺りく兵器」という時勢に乗ったニュース用語(?)とのアンバランスさが絶妙で、私は通り過ぎながら「え? 何が、"っていうか"?」と一人でしきりに考えていました。

 しかも「大量殺りく兵器」の後につながるのは「みたいな」ですから、これが言い切りを避けるために使用された当時の若者言葉特有の語尾だとすれば、発言した人は、相手か自分の前言を受けて、言い換えとして「それは大量殺りく兵器でしょう」と言っていることになりそうです。

 この文脈で、「大量殺りく兵器」を「みたいな」と結びつけているものとは、いったい何なのでしょう?(学校にあるものだとしたら「抜き打ちテスト」とか?)

 

 

 というわけで、「大量殺りく兵器」がそれ以外の何ものでもないと思い込んでいた私の思考の枠組みに、このフレーズはたいへんショッキングに響いてきました。しかも、このニュースでしか耳にすることのないあまりにも抽象的な単語の実物を、本当はまったくイメージできていないのだということにも気づかされたわけです。

 「爆弾」なのか「爆撃機」なのか、どんな形でどんな大きさなのか、どこで作られて何に使われるものなのか、どこかで戦争が起きるたびにそれこそ浴びるほど耳にしていながら、私はその単語が指し示す実像を何一つ把握してこなかったということです。(ここでヴェトナム戦争を戯画的なやり方で強烈に揶揄する『気狂いピエロ』の一場面を想起していただけたらと思います。)

 

 もしかしたら、「大量殺りく兵器」といういかめしく威圧的な響きのある単語を、基本的には神妙な口振りでしか聞いたことがなかったため、あまりにも軽妙に発せられるのを聞いて、にわかにドキッとしたということなのかもしれません。

 「大量殺りく兵器」が現実味を帯びている地域の実情について何もわかっていないという点では、その高校生たちと私との間に大差はないわけですから、あのフレーズがこうあるべきだという文脈を飛び越えて胸に突き刺ささってきたという事実には、それなりに意味がありそうです。

 

 

 以上が、「天使的な、あまりに天使的な」の第一回目になります。

 こんな風にして、日常生活で出会った「なんかへんだな」と思うフレーズを紹介してもいいという方がいましたら教えてください。

 「天使」は気を抜いているとするりとどこかへ飛び去ってしまうので、見つけたときにメモ代わりにでも送ってもらえるとありがたいです。

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